はじめまして。
まず、第1回は、このブログを読んで下さる方がまず疑問を持たれると思うことの説明をします。
それは、
“大体、本当に良い治療法なら、それが世の中のスタンダードになっているはずではないのか?
一般的に行われていないのは、なにか問題があるからではないのか?”
これは当然の疑問です。
私が考える理由は、以下の3つです。
1、技術的に習得が難しい
患者さん一人ひとりに合わせてステントグラフトを設計するには、やはり相当な経験が必要です。そして、その手術手技も技術的に高度なものになります。私は自分のライフワークとしてこの治療法の改善を目指してきたので、2000例を超える経験を得て、その精度を高めることができました。しかし、多くの心臓血管外科医にとっては、ステントグラフトは外科手術の片手間に行う手技であり(更に 胸部大動脈瘤自体がそれほど数多い疾患でではありません)、 限られた時間の中で特殊な技術を習得することは難しいのです。
2、現在の医療保険制度では、医療機関に経済的メリット がない
みなさんがご存じの通り、日本では国民皆保険制度のもとで医療が行われています。この制度の良い点は、もちろん病気になった人が誰でもお金の心配をせずに医療を受けられることであり、その点において、日本のシステムはとても優れていると思います。また、医療水準自体も非常に高く、特に外科手術の成績などは世界一といっても過言ではないほどです。(これは、日本人が器用であること、細部まで追求する国民性が好影響を与えているように思います。)
ただし、このシステムにおいては、医療に対する価格は何を行ったかという点で計算されるため、医療行為の結果はほとんど評価されません。
また手術手技料は、その手術にどれぐらいの時間と人手がかかるか、を計算して算出されるので大掛かりな手術ほど高額になり、当然、開胸手術のほうがステントグラフト手術より高くなります(弓部大動脈の開胸手術は、人工心肺を含めて約150万円、ステントグラフト内挿術は56万円)。
そうなると、設備と人員のそろった医療機関にとっては、難しい技術を使ってまでステントグラフトを選択するメリットはありません。
3、人間は変化を嫌う
今現在、患者さんの治療法を決めているのは40代50代の医師で大半であり、これまでずっと開胸手術を中心に動脈瘤を治療してきた世代です。その方達に、もうその治療法は時代遅れです、といっても簡単には受け入れられないのは当然だと思います。(もちろん、今でも開胸手術が必要な患者さんが数多くいることも事実ですが、動脈瘤治療が予防的な治療である以上、なるべく身体への負担、痛みの少ない治療を選択すべきと私は思います )。
3点目の理由は、時間が解決していく(実際、私に相談してくれる医師は若い世代の医師が中心です)と思いますが、1、2点目の問題は克服できるかどうかわかりません。
そんなわけで、私は患者さんに情報を提供することで自分の意思で治療法を選択してもらいカスタムメイドステントグラフトの良さを多くの人に認めてもらうことが必要と考えてホームページを開設することにしたのです。
正直に言って、この行動が普及につながる可能性は低いとも思っています。
それでも、私は今の自分にできることをして行こうと考えています。